プログラミング必修化~小学校や中学校で子供たちは何を学ぶ?

プログラミング教育必修化

2020年度から始まる、小学校でのプログラミング教育必修化。プログラミング必修化についての保護者向けアンケート(※)では、84.4%が「プログラミング教育必修化に対する不安がある」と回答、期待よりも不安が大きい親が多いとの結果もあります。

現時点ですぐにIT業界やIT転職にプログラミング教育必修化による影響はないものの、早ければ10年後、少なくとも15年後には子供の頃からプログラミング教育を受けた世代が社会に出ることを考えれば、将来的に日本のIT人材やITの仕事に影響をもたらすことになりそうです。

この記事ではなぜ小学校や中学校でプログラミング教育が必修化されるのか、小学生や中学生は学校で何を習うのかを確認し、社会的背景や今後のIT業界への影響を考えてみます。

※株式会社アフレルが2018年6月に実施した「プログラミング必修化に関するアンケート」結果より。

なぜプログラミング教育が必修化されるのか?その目的と理由

小学校のプログラミング教育の必修化は、なぜ今なのでしょうか?また、なぜ小学生にプログラミング教育が必要なのでしょうか?

従来から文部科学省、総務省、経済産業省が連携して設立した「未来の学びコンソーシアム」が、小学校でのプログラミング教育実現に向けて準備をしてきました。公開されている各種資料からプログラミング教育の必修化の目的や背景、理由をまとめて紹介します。

プログラミング必修化の背景にあるIT人材不足という課題

小学校のプログラミング教育必修化の背景には、IT人材の不足という課題があります。

日本では1990年代半ばからオフィスの事務作業を中心にコンピュータ化が進みました。最近では様々なサービスがWEBサイトを通して提供され、家庭内ではIoT(Internet of Things)技術によりエアコンや電気などを外部から操作可能な時代に。また、2025年には自動運転車の実用化も想定されています。

生活の至る所でIT化が進み、それらを動かすプログラムを開発するIT人材への需要が急速に高まっています。2030年にはIT人材の不足人数は45万人に拡大するとの試算(2019年4月経済産業省「IT人材需給に関する調査」)もあり、国を挙げてIT人材の育成が課題となっています。

小学生時代からプログラミング的思考、問題解決力の育成が必修化の目的

小学校プログラミング教育必修化の第一の目的は、IT力の育成です。IT力は単にプログラミングが書けることではなく、プログラミング的思考ができること。具体的には論理的思考力、プログラミングを利用した問題解決力の育成を必修化の目的としており、小学校低学年からIT力の育成を始めるのが重要との認識から小学校でのプログラミング教育の必修化が実現に至りました。

高校でのプログラミング授業が「情報Ⅰ」という科目で扱われるのと異なり、小学校・中学校で必修化されるプログラミング授業は既存科目の中でプログラミング的思考を取り入れるのが基本的な考え方。算数の授業では正多角形をコンピュータで書く時どんなプログラミングが必要かの手順を考えることで、論理的思考と正多角形の定義を再確認するといったカリキュラムです

小学校からプログラミング教育を始める意味やメリットとは?

文部科学省が発行する「プログラミング教育の手引」では、プログラミング教育は子供たちの可能性を広げることと定義しています。勉強の成績だけでなく、プログラミング能力を育み、創造力を高めることで、ビジネスの現場で活躍できる子供の育成が必修化の1つの目標です。

今後、プログラミングは特別な技術ではなくツールの1つとしてどの職種でも必要とされる能力になる可能性もあり、小学校からのプログラミング教育必修化は大きなメリットがあります。

2020年度の学習指導要領の具体的な内容

小学校のプログラミング教育必修化は、2020年度から始まる新しい学習指導要領に合わせて実施されます。具体的なプログラミング教育のカリキュラムの例を紹介します(「小学校プログラミング教育の手引」より)。

  • 手書きとプログラミングによる正多角形の作図から、プログラミングによる作図の正確さ、手順を論理的に考える思考力、正多角形の定義を学ぶ学習(算数・第5学年)
  • スイッチロボットのプログラミングを通し、電気の性質や動きを利用した道具があることを理解する学習(理科・第6学年)
  • 自動販売機の仕組みを通し、情報化が社会や生活を快適にしていることを検証する学習(総合的な学習の時間)
  • タッチパネル式の案内板を通し、まちの魅力を伝えることに情報技術を活かすことやプログラミングを使った問題解決の方法を学ぶ学習(総合的な学習の時間)
  • 自動車工場などの現地学習を踏まえ、プログラミングを駆使した産業ロボットの活躍について意見交換し、自分が作りたい自動車のプログラムを考える学習(総合的な学習の時間)

このほか手引ではリズム・パターンのプログラム(音楽・第3学年~第6学年)、47都道府県の名称と位置の学習(社会・第4学年)、自動炊飯器のプログラム(家庭・第6学年)など様々なカリキュラムにプログラミング教育を取り入れることを提案。プログラミング教育が必修化される小学校では身近な生活に関連したプログラムを中心に学びます。

子供たちは学校の授業で何を学ぶ?プログラミング教育の内容

プログラミング教育必修化に伴い、子供たちは学校の授業で何を学ぶのでしょうか?小学校ではプログラミングを通した論理的思考の育成を重視されるのに対し、中学校はプログラム作成・検証・デバッグ等の作業まで展開。高校では新教科「情報Ⅰ」が必須科目になり実践的な情報処理の技術を学習するなど、教育課程ごとにプログラミング教育必修化の目的が異なります。

プログラミング教育必修化で利用するプログラミング言語も発達段階に合わせビジュアル言語(アイコンやブロックの組み合わせなど視覚的な操作によるプログラミングが可能な言語)からテキスト言語(文字、数字、記号で記述するプログラミング言語)へと変わります。

以下、小学校や中学校、高校の各段階で学ぶプログラミング教育の目的や学習内容、必修化に伴う現行学習指導要領の変更点を確認します。

小学校のプログラミング教育必修化は論理的思考の育成が目的

小学校プログラミング教育必修化の目的は、コンピュータに意図した処理を行わせるための論理的な思考力「プログラミング的思考」の育成で、プログラミング言語や技術の習得は目的でありません。

算数の授業例は、プログラミングによる正多角形の作図です。正多角形の定義を確認後、手書きとプログラミングの両方で作図します。この問題ではプログラミングが正確な作図に有効なツールであることを確認し、どの命令順でプログラムをかけば作図可能かを検証し、論理的思考を学びます。

小学校で必修化となるプログラミング教育は、既存教科の中でプログラミングを学びます。校外学習でも、自動車製造の現場でプログラミングが使われていることや、住宅メーカーと連携した生活中のプログラミングの利用などが具体的な授業例。学習面だけでなく、プログラミングの楽しみや基本操作を学ぶ授業も用意されています。

これまで小学校のプログラミング教育は必修ではありませんでしたが、必修化後も新たな科目を設定するのではなく既存のカリキュラムにプログラミング思考を取り入れる形で実施されます。

中学校におけるプログラミング教育とカリキュラム

中学校のプログラミング教育は現行学習指導要領でも必修科目で、技術「情報の技術」で情報通信ネットワークやプログラミング、情報モラルが指導されていました。具体的にはプレゼンテーションやアニメーション、WEBページの作成などプログラムを利用した作品作りが中心のカリキュラムでした。

2020年度の新しい学習指導要領ではソフトウェアの利用だけでなく、プログラミングを使い問題解決する技術が必修化されます。中学生全員を専門家(プログラマー)にするのが目的でなく、現行のソフトウェアの受動的な活用からプログラミングの能動的な利用への変更が必修化のポイントです。

プログラミング教育必修化の具体なカリキュラムではチャットボット作成が取り上げられ、ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツプログラミングなどが教えられます。作成だけでなく、動作確認及びデバッグ等まで要求され、小学校のプログラミング教育より一段階上の内容です。

高校のプログラミング教育は選択から必修科目の「情報Ⅰ」へ

現行の高校向け学習指導要領は「社会と情報」、「情報の科学」のどちらかの情報科目を選ぶ選択必修科目でした。プログラミングが必修の「情報の科学」を選択せずプログラミングを学ばない生徒も多くいましたが、必修化によりすべての高校生がプログラミングによる問題解決を学びます。

高校の新しい学習指導要領の必履修科目「情報Ⅰ」では、プログラミング、ネットワーク、データベースの基礎を学びます。使用するプログラミング言語もキーボード入力のテキスト言語になり、本格的なプログラムを作成します。高校のプログラミング教育必修化の目的も、中学校同様プログラミングの専門家育成ではなく問題解決力の育成です。

必修化後はどんな先生が教える?教材・教科書は?言語は何?

小学校プログラミング教育必修化で、先生や教材・教科書はどう変更されるのでしょうか?具体的なカリキュラムや使用プログラミング言語などの詳細を確認していきます。

ICT支援員やボランティアが先生をサポート

小学校のプログラミング教育は中学・高校のような単独科目でなく、既存科目の中で学ぶ形で必修化されます。このため、基本はその科目の先生が中心になり指導しますが、多くはプログラミング経験や知識のない先生。必修化に先立ち文部科学省は教員指導資料や教材を提供し、プログラミング教育の概要や基本操作の研修をサポートしています。

また、文部科学省はプログラミング教育必修化以前から各教育委員会に配置されているICT支援員や市民ボランティアをプログラミング講師として活用することを推奨しています。プログラミングを実践する授業では、これらの講師がによる授業のサポートも考えられます。

2019年度調査結果からみる学校・教員の準備状況

小学校プログラミング教育の必修化に伴う各学校や教員の準備状況を確認するため、文部科学省は各教育委員会に調査を実施、報告書を公開しています(文部科学省「2019年度・市町村教育委員会における小学校プログラミング教育に関する取組状況等調査の結果について」)。

調査結果では約93%の教育委員会が2019年度末までに各校に1人以上、教員に実践的な研修や、教員による授業の実践・模擬授業を実施済み・実施予定と回答。都道府県別では茨城県、福井県、和歌山県、高知県、長崎県が100%実施済と必修化の準備が万全と回答する一方、実施予定も含めて73.7%しかない県もあり、都道府県間のばらつきが課題です。

文部科学省は必修化に先立ち、プログラミング教育ポータル「未来の学びコンソーシアム」と連携、小学校プログラミング教育全面実施に向けた情報提供や教師の教育実施など、様々な取り組みを進めています。

使用するプログラミング言語や教材は?

小学校で必修化されるプログラミング教育で使用するプログラミング言語や教材はどんなものになるのでしょうか?

小学校では論理的思考の育成を重視するため、キーボード入力が中心のテキスト言語でなく、ブロックの組み合わせでプログラミングするビジュアル言語の使用を中心にプログラミング教育が必修化されます。必修化に先立つ小学校プログラミング教育の実施事例ではScratch、レゴWeDo、MESHなど複数のプログラミング言語が採用されました。

小学校プログラミング教育必修化で主に使用されるプログラミング言語Scratchは、ブロックの組み合わせによりプログラミングするオブジェクト指向言語。小学生向けプログラミング教室や塾の利用実績、作品公開する仕組みもあり、世界中で低学年向けプログラミング教育ツールとして活用されています。算数の正多角形作図の授業やプログラミングの楽しみを学ぶカリキュラムで利用されます。

レゴWeDoもブロックを組み合わせてプログラミングするビジュアル言語。コンピュータ内蔵のブロックに命令を与えることで、実際にプログラミングがロボットを動かす体験ができ、主に小学校第6学年の理科で使用されます。MESHもレゴWeDoと同じくブロックの組み合わせから出す命令でLEDやモーターなどへの通電制御を学ぶビジュアル言語。必修化のカリキュラムではスイッチの動作のプログラミングなどで使用します。

プログラミング教育で使用するハードウェアは、コンピュータだけでなく、iPad、スイッチロボットなどカリキュラムにより異なります。

コンピュータやタブレットの購入は必要?

プログラミング教育必修化で、小学生もコンピュータやタブレットの購入が必要でしょうか?基本は各学校が用意するため家庭で用意する必要はあなく、プログラミングの授業を受け興味があればScratchが動作可能な低価格の汎用機を購入すれば十分です。

プログラミング教育が必修化だからと、慌ててコンピュータの購入や塾に通う必要もなく、授業を受けて興味を持った小学生が個別にプログラミングスクールで上のレベルを目指すのがよさそうです。

まとめ:プログラミング必修化から15年後のIT業界やエンジニア転職は?

以上、2020年度から必修化されるプログラミング教育について紹介しました。今後、日本のIT業界やエンジニア転職はどう変化するでしょうか?

小学校プログラミング教育必修化で初心者プログラマーが増加

2020年度から小学校や高校でプログラミングの授業が必修化されますが、あくまでプログラミングは手段(ツール)であり、論理的思考の育成が主目的。小学校や中学校、高校のカリキュラムや使用プログラミング言語も異なり、情報処理の専門家やプログラマー育成が目的ではありません。

従来の学校教育は記憶学習が中心で論理的思考があまり重視されなかった点を踏まえると大きな転換ですが、プログラミング教育の必修化では初心者レベルのプログラマーが増えるだけで、IT・エンジニア人材不足の課題を短期的に解消することは難しそうです。

IT人材として価値を高めるにはAI開発で使えるプログラム言語の習得がおすすめ

経済産業省の「IT人材需給に関する調査」では、ITシステムの受託開発・保守運用サービス従事者を従来型IT市場、IoT及びAIを活用したITサービス市場を先端IT市場、とIT人材を2つに分けて定義しています。仮に今回の小学校プログラミング教育必修化で従来型IT市場の人材不足は解消されても、先端IT市場で活躍する人材育成は難しいとも考えられます。

以上を踏まえると、必修化でプログラミングを学ぶ小学生が大人になる15年後、従来型IT市場のプログラマーは人材増加で競争が激しくなる可能性があります。現在、20代の若手ITエンジニアは将来的な人材価値を高めるには、AIやIoTなどの先端IT市場で活躍できるPython、R言語、JuliaやJavaといったプログラム言語を習得がおすすめとも言えそうです。

また今後のIT業界ではプログラミングが可能なことはもちろん、プログラミングで実現できることを創造する力が重視されるのではないでしょうか。

さらに詳しい学校での授業内容は文部科学省の情報サイトを

小学校のプログラミング教育必修化などについては、文部科学省、総務省、経済産業省が協力しポータルサイトをWEBで提供しています(未来の学びコンソーシアム)。必修化より先にプログラミング教育が導入された学校の授業内容の紹介や、学習指導要領に例示されているカリキュラムの詳細が確認できます。小学生が今後授業で学ぶ内容を知りたい人におすすめのWEBサイトです。

参考:未来の学びコンソーシアム